第69章

視線が交差する。

稲垣栄作は病院着姿の高橋遥を見た。小さな顔には病の色が浮かび、彼女の目には生気のかけらもない。彼女は見知らぬ人を見るような目で彼を見つめていた。

つい先日まで、彼女は彼の腕の中で柔らかな声で言ったばかりだった。「稲垣栄作、私があなたに抱いていた気持ちを取り戻すには、何年も、あるいは十年以上かかるかもしれない……その時になっても欲しいの?」

あの時、彼が「欲しい」と答えたのは本心だった。

だが後に、彼が彼女の心を泥の中に叩きつけたのも事実だった。

長い間見つめ合って……

ついに、稲垣栄作は震えるような声で口を開いた。「高橋遥!」

彼が彼女の手を掴もうとすると、押...

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